2015年05月31日

19本目「ある優しき殺人者の記録」


2014年日本・韓国
監督 白石晃士 出損  ヨン・ジェウク キム・コッピ 葵つかさ 米村亮太朗

フェイク・ドキュメンタリーの至高の到達点、ここに降臨!

韓国の障害者施設を脱走後、立て続けに18人を惨殺した殺人犯パク・サンジュン。
その幼なじみで女性ジャーナリストのソヨンは、潜伏中のサンジュンから独占インタビューの申し出を受ける。ソヨンは日本人カメラマン・田代をともない指定の場所を訪れるが、サンジュンの不意打ちに遭い廃マンションの一室に監禁されてしまう。
「これから起きることをすべて記録しろ。カメラを止めたら殺す」
サンジュンの口から語られる、18人殺しの想像を絶する異常な動機とは・・・
86分ワンカット、一台のカメラが捉え続けた緊迫の密室劇。
剥き出しの暴力と狂気の果てに、壮大かつ哀切な「奇跡」が待ち受ける!


今日本で一番面白いホラー映画を撮る監督といっても過言ではない(個人的意見です)白石晃士監督の最新作!
フェイク・ドキュメンタリーの金字塔的傑作「ノロイ」を始めとして、「オカルト」「カルト」そして「戦慄怪奇ファイル コワすぎっ!」シリーズと、白石監督のフィルモグラフィは映画好きの脳髄をビリビリ痺れさせる奇跡の傑作ばかり。
低予算をものともしないセンス溢れる映像表現、常に予想の斜め上をいく展開、恐怖と笑いの絶妙なブレンド。
今作はそんな白石監督の魅力が全て詰まった集大成的作品です。

※ネタばれです。鑑賞後にお読みください!







とっ捕まってプルプル震えるソヨンと田代に対し、サンジュンは18人殺しの動機について語り始めます。実はサンジュン、発覚していない殺人を含めるとすでに25人殺害しており、あと2人殺す予定だと言い出します。
しかし何も殺したくて殺しているんではない、とサンジュンは苦悩に満ちた目で告白します。
これは“神の啓示”なんだと。
自分が27歳になった時に、選ばれし27人の人間を殺害すると、幼い頃交通事故で死んだ、ソヨンとも仲の良かった少女・ユンジンを生き返らせることができると。完遂すればユンジンだけでなく今まで殺した人もすべて生き返るんだと。そう“神”からのメッセージがあったというのです。
この超高濃度電波発言に真っ青になるソヨン&田代。
なるべく刺激しないように「それはないんじゃあ・・・」と諭そうとするのですが、
「実はもう残りの2人捕まえてあるんだけど・・・」
とまさかの犯罪進行中!
しかしどうやらメッセージを解釈し間違えたらしく、選ばれし2人ではないと。(啓示によれば、選ばれし2人は真に愛し合っており、2人とも首にアザがあるらしい)
どうしたものかと悩むサンジュンでしたがその時ソヨンのケータイに着信が!
出てみるとソヨンの上司から。
ところが途中からノイズが入り始め音声がぶつ切りになり、しまいにその途切れ途切れのその声が
「フ・・タ・・リ・・コ・・ロ・・セ・・」(なぜか日本語)
と聞こえたからサア大変!
「聞いたか!?これが神の声だ!」
サンジュン、苦悩しつつもトリコの2人を殺害!ソヨンと田代は何もできず傍観。
そして新たな啓示を求めるサンジュンは雑誌に載ったソヨンのインタビュー記事から文字列を拾い、メッセージを解読。もうすぐ日本人カップルがこの部屋にやってくる。それが選ばれし2人に違いないと。そんな馬鹿な・・・と思ったら本当に来た!
またもや不意打ちを食らわしてカップルの捕獲に成功。
しかしこのカップル、普通の旅行者ではありませんでした。どこからどう見てもカタギではない、アンダーグラウンドな世界の住人だったのです。(米村亮太朗・葵つかさ熱演)
選ばれし2人の証である、真の愛を見せてみろと迫るサンジュンでしたが凶暴かつしたたかなカップルには通じず、いくら痛めつけても思い通りになりません。思い余ったサンジュンは「女をレイプするぞ!」と脅しますが「やれるもんならやってみろ!お前童貞だろ」と挑発され激昂。
本当に実行してしまいますがなぜか米山亮太朗は嬉しそう。実はこの2人、寝取られ願望のある変態カップルだったのです・・・
その後逆襲につぐ逆襲の結果、日本人カップルは死亡。途中からサンジュンに味方したソヨンと田代は重傷を負います。しかし、奇跡は起きませんでした。実はサンジュンとソヨンこそが最後の選ばれし2人であり、その証として首にアザがあったのです(ソヨンは途中から気づいていたが、サンジュンは自分にアザがあることを知らなかった)
「わたしを殺して。ユンジンを生き返らせて」ついに啓示を信じた瀕死のソヨンを、泣きながら絞め殺すサンジュン。田代も死に、サンジュンはカメラを手にマンションの屋上へ向かいます。
「これで奇跡が起きなかったら、僕は神を赦さない!」泣き叫びながら命を絶とうとするサンジュン。
その時!天空に渦巻く雲海から、無数の触手が伸びてきた!
サンジュンがカメラもろとも放り出されたのは、十数年前、ユンジンが事故に遭う直前の世界。
サンジュンはユンジンを守り、自分が車にはねられて死亡。
とカメラだけが超空間に吸い込まれ、また現代へ。
クリスマスでにぎわう街を楽しそうに連れ立って歩くサンジュンとソヨン、そして大人になったユンジンをカメラが映し出し、物語はまさかのハッピーエンドで幕を閉じます。


観終わって真っ先に思い浮かんだのが、同じ白石監督の「オカルト」。
どちらも「”神様”からの毒電波で反社会的行動を犯す人間」が主人公ですが、決定的に違うのは、「オカルト」がとてつもないバッドエンドを迎えるのに今作は一見ハッピーエンドだということ。しかしこれは本当にハッピーエンドなのか?終わりよければ途中何をやってもいいのか。なまじなバッドエンドよりはるかに観る人のモラルを揺さぶってくる結末です。
それにサンジュンが大量殺人を犯した元の世界がもし消失したのだとしたら、そこで大なり小なり幸せを手にしていた多くの人々を抹殺したことになり、そう考えると27人殺しどころか宇宙規模のジェノサイドが発生したことにならないか。
それを言ったら歴史改変物はみんな同じことが言えるわけですが・・・

まあ、そこまでして運命を覆そうとしたサンジュンが最後報われたことにはやはりジーンとくるものがありました。
posted by 竹島書店おすすめ映画 at 04:34| Comment(0) | 日記

2015年05月16日

18本目「ベルフラワー」


2012年 アメリカ
監督 エヴァン・グローデル 出損  エヴァン・グローデル ジェシー・ワイズマン 

「マッドマックス2」をこよなく愛し、世紀末仕様カスタムカーと火炎放射器の自作に情熱を燃やすプー太郎に彼女ができた!・・・そしてあっという間に寝取られた!
女なんてもう・・・信じられねえ!
あまりのショックに発狂、現実と妄想の区別を失くした彼が、懊悩の果てに辿り着くのは血みどろの惨劇か、それとも・・・
フラれてから観るか、観てからフラれるか。
すべてのボンクラ男子のハートをズタズタに引きちぎる、激痛青春映画!


※ネタバレあり。鑑賞後にお読みください。











主人公のウッドローはメカには強いがシャイで冴えない青年(無職・たぶん童貞)。(監督自ら熱演!)
世紀末バイオレンスの金字塔「マッドマックス2」フリークで、特に劇中に登場するモヒカン暴走族のヘッド・偉大なるヒューマンガスの崇拝者という、精通前のピュアハートをいつまでもキープし続けるナイスガイ。
ヒューマンガスとはどんなキャラクターか?
説明しなくても男子なら了解済みであってほしいところをあえて説明しますと、まずルックスはボディビルダーのような肉体にレザーベルトを巻きつけ、ただれた頭部にホッケーマスクと鞭打ち用コルセットを装着するという独創的なファッション。核戦争後の荒廃した世界で暴虐の限りを尽す野獣のような配下たちを圧倒的な腕力とカリスマ性で統率する、まさに荒野の帝王。
大親友のエイデン(コイツも無職)も同じくヒューマンガス信者で、2人で火炎放射器を組み立てたり、「メデューサ号」と名付けたマッスルカーを世紀末風にカスタムしたりとポスト・アポカリプスの準備に余念のない毎日。
ある晩、バーでウッドローはミリーという女性に出会います。
このミリー、かなりエキセントリックな女性で、コオロギの早食い競争に参加してコオロギをわっしゃわしゃ食ってしまうような人。物語上では美人ということになっているのですが、正直どうなのか・・・ジュリエット・ルイスが三日三晩呑み続けたらこうなる顔という感じですか?
とにかくウッドローは一目ぼれ、無我夢中のアタックでデートの約束を取り付けます。
デート当日、ミリーの家に迎えに行くと、まず出てきたのはマイクという同居人。ミリーと家をシェアしているようなんですが恋人ではないらしい。でもちょっと怪しい雰囲気。
まあこの時点で悪い予感しかしませんが、恋に盲目のウッドローはミリーに告白します。「付き合ったら、絶対傷つけることになる」と断るミリーですが、「ボクが君を傷つけるかもしれないよ?」と冗談交じりに返すと「それはありえないわ」と自信たっぷりな微笑み。(ここ、伏線です)
そんなやり取りを交わしつつも結局2人はカップルになり、同棲。
ヒゲが好きなミリーのために、大嫌いなヒゲを伸ばすウッドロー。
初めてのセックスの後、「よかったよ・・・君はよかったかい?」と聞いてしまうウッドロー。
人によってはイタ過ぎて非常に悶えるというか、突き刺さる描写が続きます。
しかし幸せな日々は長くは続きませんでした。
ミリーが少し冷めたような態度を取りだしてまもなく。
出かける予定がドタキャン食らったウッドローが家に帰ってみると、例の元の同居人・マイクとミリーが道路工事のように猛烈なセックスの真っ最中!
やっぱそうなるか!観てるこっちは納得ですがウッドローは当然発狂!
「うわーーい!?」と外に走り出たところに車が突っ込んできて思い切り跳ね飛ばされてしまいます。
幸い命は取り留めたものの、頭を打って後遺症に悩まされ、最愛の彼女も失ったウッドロー。
肉体と精神のダブルで襲ってくる痛みから逃れようとあがくウッドローは、ミリーの友達のコートニーと付き合い出します。コートニーは元もと親友のエイデンが好きだった子なんですが、エイデンは特に怒りもせず、変わらない友情をウッドローに捧げ続けます。イイ奴過ぎないか?
徐々に落ち着きを取り戻すかに思われた日常ですが、ミリーが家に置いて行った荷物を返す返さないでマイクとのあいだに抗争勃発。ここから物語は急激にバイオレンス度アップ。
お互い大人気ないやり合いの後、キレたマイクがバットでメデューサ号のガラスを叩き割り、怒り狂ったエイデンがバットを奪い取ってマイクの顔面にフルスイング!マイクは死亡、エイデンは逃亡します。
直後、ミリーはウッドローを自宅で待ち伏せ、睡眠薬を嗅がせます。
目を覚ましたウッドローは、ミリーと破局した後キレイに剃り落したはずのヒゲ、大嫌いだったヒゲが顔の下半分を覆っていることに気づき絶叫。
それは、寝ている間に顔に彫り込まれたヒゲのタトゥーだったのです・・・
完全に狂乱したウッドローはミリーを襲撃。頂点に達した愛情と憎悪の果てに、訪れたのは凄惨な結末・・・・こんな終わり方しかなかったのか・・・と思った瞬間。
場面は時をさかのぼり、事故直後の虚脱したウッドローに戻ります。
そう、今までの悪夢的展開はウッドローの妄想だったのです。

フラれた直後に自分を甘えさせてくれる女性が現れたのも妄想だし、あまりにも献身的に過ぎるエイデンの行動も妄想。ミリーに対する凶行も、現実のウッドローには結局やりたくてもできないことだったわけで、ミリーが言った「(あなたがわたしを傷つけることは)ありえない」というセリフがここで効いてきます。というか、映画前半の幸せな日々も美化された思い出で、現実なのはさっきの現実と妄想の転換点、事故直後の座り込んで虚空を見つめ続けるウッドローだけなのかもしれません。

かつてマッチこと近藤真彦が「ふられてBANZAI」という素敵過ぎる題名の歌を唄っていました。歌詞はよく覚えていませんが、別れたほうが彼女のためだから、つらいけど「BANZAI」なんだよ的な内容だったと思います。まあなかなかそうも言えないのは、フラれた時のダメージの大半が自分を全否定される辛さにあるからではないでしょうか。特に恋愛慣れしていない人にとっては・・・傷ついたプライドをなんとか癒そうと、誰しも色々あがいたり、自分に都合のよい空想にふけったりするものですが、この「ベルフラワー」はそんなイタ過ぎる心の動きも容赦なく描き出しており、非常に刺さってくる作品です。猛烈で耐え難い「失恋の痛み」そのものを映画の形で表現した作品と言えましょう。

posted by 竹島書店おすすめ映画 at 00:45| Comment(0) | 日記